物議醸す児童養護施設ドラマ、生活する子どもの思いは/神奈川

カナコロ 2014年1月29日

児童養護施設を舞台にした日本テレビの連続ドラマ「明日、ママがいない」が物議を醸している。描写や設定が「誤解や偏見を生む」として、全国の児童養護施設から放送中止や内容変更を求める声が上がっている。実際に施設で生活する子どもはドラマのどこに「引っかかり」を覚えるのか。
15日に放送された第1話の冒頭のシーン-。施設の子どもたちを施設長が「お前たちはペットショップの犬と同じだ」とののしり、里親に気に入ってもらうため「ときに心を癒やすようにかわいらしく笑い、ときに庇護(ひご)欲をそそるように泣け」と泣きまねを迫る。
横浜市内の高校1年の女子生徒は、途中でテレビ画面を見続けることができなくなった。「今は高校生だし、周囲も自分も『ドラマの作り話』と割り切れる。でも、もっと幼ければ『施設はこんなとこじゃない』ってショックを受けていたと思う」
「赤ちゃんポスト」に預けられたから「ポスト」、親が貧乏だったから「ボンビ」-。登場人物にはそんなあだ名も付けられている。
自分が抱える過去とドラマで描かれる子どもたちの苦悩が重なる部分もあると女子生徒は感じた。でも、現実にはあり得ない描写の連続に戸惑いも覚えた。「親に見捨てられたかわいそうな子どもといった面が誇張され、何を伝えたいのか分からない。中身は現実離れしているのに、都合良く題材にだけされている感じがする」
嫌なら見なければいい。虚構なんだから放っておけばいい。そういう意見も分かる。ただ現実に気持ちは乱され、放送をストレスに感じるようになった。「もっとつらい現実や過去を持っている人もいるんです」
横浜市内の児童養護施設で暮らす中学3年の男子生徒も「施設を舞台にするなら、ドキュメンタリーとか現実を知ってもらえるものにしてほしかった」と残念がる。
違和感を持ったのは、主人公が施設長から平手打ちにされ、罰としてバケツを持って立たされるシーン。
「今どき子どもを殴る施設なんてあるのか。少なくとも自分は一度もない」
いまスポーツに打ち込んでいる。親友と呼べる仲間がいる。自分に両親がいないことも知っている。でも自分の過去に何があったのかを細かく伝えることはない。「そんなの言われても、相手も重いでしょ」
ドラマの放送がスタートし、特に変わったことはない。「もしあれで自分に対する見方を変えるような友達なら、そもそも付き合っていない」
知ってほしい現実とは、例えば、高校受験に向けて必要な書類の「保護者の欄」を前にしたときの気持ちだ。「自分の名字とは違う人を書くから、周りに見られるのが嫌だ。プールの出席カードとか、避難訓練の受け渡し訓練もそう。日常のささいな場面でそういうことがある。あのドラマを作った人や見た人には、自分たちのそういう気持ちが分からないと思う」

関東学院大人間環境学部・鈴木力准教授、取り上げ方に疑問
養護施設で暮らす子どもは全国で約4万7千人、県内では約1800人とされる。
子ども家庭福祉学を専門とし、自身も児童養護グループホームの分園で子どもを預かる関東学院大人間環境学部の鈴木力准教授は、ドラマの「取り上げ方」を問題視する。「施設の子どもの6、7割が過去に何らかの虐待を受けている。描かれ方によっては周囲からの反応や精神的ダメージなど、次の被害が生まれやすい」
これまでも児童養護施設を描いた番組や作品はあった。それを一概に否定はしない。「施設の内実が社会的に認知されておらず、偏見にさらされている。開所に際して反対運動が起きるのも同じ理由。現実を踏まえたドラマであれば、偏見を是正する役割もある」
施設の子どもにはある段階で自身の過去を知らせる「真実告知」を行う。受け入れがたい現実と向き合うためにも「この大人は頼って大丈夫という信頼関係の構築が何より重要」と話す。ドラマは29日に3話目が放送されるところだが、この先、そうした地道で根気が要る「社会的養護の本質」に触れる場面が描かれるのかが気になっている。
県内の児童養護施設で施設長を務めていた男性は、ドラマ開始前に制作サイドから作品へのアドバイスを求められたという。「子どもを犬扱いする表現などはあり得ないと指摘したのだが」と残念がる。
男性は「里親が『長い時間をかけて家族になりたい』というシーンがあるなど、希望につながりそうな場面もある。そういう意味でも、テレビ局側は『最後まで見て欲しい』と言うのだと思う」と指摘する。
事情を抱えた子どもにたくましく、賢く生きていってほしいというドラマのテーマには共感する。「ただ、フィクションとはいえここまで自由に描くことが許されるのかという疑問は感じる。逆説的だが、この問題が結果的に児童養護の理解を広めたり、啓発につながってくれればいいのだが」と話した。

ドラマ「明日、ママがいない」をめぐる騒動
児童養護施設関係者が問題視しているのは、ドラマの中で施設長が子どもに暴言を吐いたり、平手打ちや「バケツ持ち」の体罰を与えたりするシーンが描かれ、「赤ちゃんポスト」に預けられた子に「ポスト」というあだ名が付けられていることなど。
「こうのとりのゆりかご」(赤ちゃんポスト)を設置する慈恵病院(熊本市)や全国児童養護施設協議会が「養護施設の子どもや職員への誤解や偏見を与えかねない」として放送の中止や内容改善を求めている。
騒動を受け、番組を提供するスポンサー全8社がCM放送を見合わせる異例の事態に。
日本テレビは「ドラマは子どもたちの心根の純粋さや強さ、たくましさを全面に表し、子どもたちの視点から『愛情とは何か』を描くという趣旨のもと、子どもたちを愛する方々の思いも真摯(しんし)に描いていきたいと思っております。是非、最後までご覧いただきたいと思います」とのコメントを発表。大久保好男社長は27日の定例記者会見で「抗議や申し入れは重く受け止めるが、最後まで見れば私たちの意図を理解していただける」と述べ、当初の予定通り全9話を放送する方針を示した。

慈恵病院、「明日、ママがいない」への見解をサイトで公開
全国児童養護施設協議会も日本テレビに改めて番組改善を要請。

ねとらぼ 2014年01月29日

熊本の慈恵病院は1月29日、公式サイトに「現在放送中の『明日、ママがいない』放送に当たりまして」と題する見解を公開した。
同病院は、日本テレビ系ドラマ「明日、ママがいない」に対して、その内容が「児童養護施設で生活する敏感な子どもたちに与える影響が大きいと予想される」と放送以前から問題視。昨年12月から内容変更を申し入れており、第1回が放送されるにあたり放送中止を求めていた。
サイトでは「当院のお願いが一種の論争を引き起こす形となったにも関わらず、皆様に十分な情報が伝わりにくくなっていることに対し、深くお詫び申し上げます」と謝罪するとともに、9項目について見解を述べている。
項目では「第1回放送分の問題点」に言及。「フィクションだから、いいのでは?」「売名行為では?」といった疑問や意見について答えている。
見解の公開については、誤解を招く状況が生じており、改めて理解を求めるためであり、「一般家庭のお子さんだけではなく、児童養護施設へ入所する前に家庭で虐待を受けたお子さんの、傷ついた心のケア」の問題であり、「虐待を受けた中にはトラウマ(心的外傷)の影響から脱却できないケースがあります。友達が冗談で投げかけた『ポスト』『ロッカー』『ドンキ』などの言葉も、虐待を受けた子どもの心には刃物のように突き刺さり、フラッシュバックの引き金になりかねません」と説明している。
また、全国児童養護施設協議会からも「施設の子どもたちを、これ以上傷つけないでください」とする改善要求が公開されている。それによると、第2回の放送においても「子どもを動物扱いしたり、恐怖心で子どもを支配する表現が多くみられる」と改善が見られなかったため、実態を調査するために都道府県の本会役員に対しアンケートを実施。その結果、「子どもが情緒不安定となり自傷行為に及ぶ事例や、施設の子どもがクラスメイトに心ない言葉をかけられる事例等が報告」されたことを明らかにしている。
その上で、日本テレビに対して改めて「施設の子どもたちをこれ以上傷つけることのないよう、子どもの人権に配慮した番組内容とするように要請」するとともに文書による回答を求めた。

「明日、ママがいない」第3話、ACの公共CMで対応

スポーツ報知 2014年1月29日

日本テレビは29日、児童養護施設の団体などから内容改善を求められている連続ドラマ「明日、ママがいない」の第3話を予定どおり放送した。番組を提供しているスポンサー全8社がCM放送を見合わせたため、ACジャパン(旧公共広告機構)の公共CMに差し替えて対応した。
同局は番組内でACジャパンのCM計10本のほか、提供スポンサー以外の企業のCMや、他番組の宣伝を放送した。