はじめに
福祉施設の建物は、年々減価償却しています。鉄筋コンクリート造でも固定資産的耐用年数は、39年となっています。従って、現存する福祉施設は、必ず、建替事業が発生するのです。しかし、それは、30年~50年に1回の周期であり、同人物が2度、建替を経験することは、殆どないでしょう。
つまり、建替事業の担当者は、殆どの場合、初めての経験です。また、制度は、少しづつ変化しています。補助金制度は、国庫協議に於いて民間施設の書類作成が生じていましたが、交付金制度に於いては、国庫協議は、完全に自治体と国の協議であり、民間施設が書類を作成することはありません。勿論、書類整備の補助は発生します。
従って、現時点での情報が、未来永劫まで通用することはありません。ただ、冒頭でも述べているとおり、殆どの担当者は、初めての経験であり、建替事業のイメージすら描けないのが現実です。そのイメージ作りの参考になるよう概略をまとめました。まず、資金計画を策定し、法人の建設資金限度額を把握する。それを予定価格とし、設計士にその価格内で、設計図を描いて貰う。これが、事業の基本となります。
1.理事会決議
建築事業を行う場合は、まず、理事会にて事業の概要を伝え、決議・承認を受けることから始まります。つまり、議事録に記載されていることが重要です。
建築資金試算表、資金計画及び借入金返済計画等を作成し、理事会で提示します。理事会決議の基礎として、経営的に事業が立ち上げられるかどうかが、最も重要です。
建物を建造する。これが現実の事業ですが、法人の理念を、その建物に注入していくことが大切です。それが、環境作りと言う視点になり、施設の個性へと繋がっていきます。
建築事業は、施設単位の事業ではなく、法人単位の事業になります。つまり、施主の代表者は、理事長となり、各種書類への押印は、法人印になります。法人本部と施設所在地が離れた場所にある場合は、この法人印押印で苦労することになります。
2.自治体との協議
理事会で承認を受けたので、早速、建築事業を開始しようとの考えは、早計です。自治体に理事会承認の内容を伝え、理解を求める必要があります。それは、建築費用の補助金申請に関わり、竣工後の措置費支弁にも影響を与えます。自治体には、事業計画をレポートとしてまとめ、建築事業の必要性と有効性を明確に示す必要があります。
また、事業前後の措置受入計画や、定員を増員する計画であれば、児童養護施設職員配置基準を再確認し、職員配置計画を策定した上で職員雇用計画等を示せば、自治体担当者も理解しやすいと考えられます。
自治体が交付金申請を行う場合は、「次世代育成支援対策施設整備計画協議」用の評価ポイントの算出が関わってきます。資料を参考にポイントを仮計算します。ポイント数が50以下の場合は、ポイントを稼ぐために何をすべきかを計画していきます。勿論、何ポイントが採否のラインかは、予算年度と申込状況によって変化しますので、予測ができません。自治体施設整備担当者と共に対策を検討していきます。
自治体発行の施設整備補助金交付要綱等のマニュアルを自治体担当者から入手します。今後の自治体とのやりとりは、そのマニュアルによって進められていきます。実務担当者は、熟読しておくことが大切です。
自治体施設整備担当者が書類整備を行う場合、その書類は、上司や予算編成に関わる部署を通らなければなりません。つまり、書類整備に関わる書類提出を施設の実務担当者に求めるとき、本来の締め切り日より早めに提出を求めて来ます。
その様な理由で、「~の資料を提出してください。?日までに」の?日までの期間が2~3日の場合も生じて来ます。そのあたりの事情を充分に理解し、自治体施設整備担当者に全面的に協力していきます。
3.建物設置場所の決定、事業種別・事業内容の決定、仮設園舎用地探し
新規事業の場合は、土地選定から始まりますが、建替事業の場合は、土地が存在しているので、現状の土地で建替事業が可能かどうかのチェックが必要です。現存する建物の建設当時と現在では、建築基準法の改正が行われており、敷地と道路の関係、建坪率等は、設計士等専門家に助言を求めておく必要があります。
また、用地現況調査(土地の測量を行い公図を確定)、地質調査(地中障害や地盤強度も併せて調査)、社会福祉施設老朽度調査、耐震診断、テレビ受信障害調査、アスベスト調査等の調査を実施しておく必要があり、これらの経費として、300万円~500万円程度を要します。
これらの調査は、経費が掛かるから省略しようと考えがちですが、最低限の必要経費として捉え、必ず実施しておくことが大切です。
事業種別や事業内容は、児童養護施設の継続だけであれば、特に、追記することはないのですが、例えば、児童家庭支援センターを新規事業とするなど追加事業があれば、事業内容をしっかりと吟味し事業計画を明確にします。
余剰敷地が存在しない限り、現存建物で生活している人が退去しないと解体が始められず、建築が進捗しません。従って、仮生活の場が必要になります。仮設園舎を建てる用地確保が必要であり、その借地代、プレハブで園舎を建設するにしても定員数にもよりますが、1億円程度の費用を要します。駐車スペースが確保できなければ、月極駐車料金も発生します。この仮設に関する補助金は、1千5百万円程度ですので、例えば、用地は、自治体管理の用地を都合して貰う、プレハブは、レンタルを探す等の工夫が必要です。但し、仮生活と言えども最低基準を満たすことが必要ですので、レンタルプレハブでは、条件を満たすことは、難しいでしょう。結局、仮設園舎の建設が求められます。
勿論、余剰敷地があれば、現存建物で生活しながら、新規建物の建設が進められます。
4.建物構造の決定・資金計画(概算見積書)、地元の同意(町内会長へ説明)
木造か重量鉄骨造か鉄筋コンクリート造かを明確にします。これによって、入札参加業者が絞り込まれ、勿論、資金面でも大きな違いが生じます。建築後は、減価償却率に影響してきます。
資金計画は、十分に検討を重ねます。本体工事費以外にも調査費用や建築確認申請費用等の諸経費で700万円前後は掛かり、補助対象にならない部分は、勿論完全自己負担となります。融資を受けるにしても、その後の返済計画を詰めておかないと、経営破綻に追い込まれる危険性もあります。また、建設工事では、様々な要因により追加工事費が発生することは、よくあることです。その分も見越しておく必要があります。可能な限りの状況予測を試み、事業費の限界額を導き出していきます。
この段階で、地元の同意を得ておく必要がありますが、まず、自治会長へ説明に行き、地域住民への説明会が必要かどうかの打診を行います。説明会が必要であれば、その段取りを進めます。実際には、設計図が完成した頃に、説明会の開催又は、説明プリントの配付と言うことになります。
5.理事会決議
設計業者入札を実施するにあたり、理事会の承認が必要です。これまでの事業経緯の報告と共に、入札の段取りを確認します。
特に、事業費の限界額については、十分に協議を重ね、理事全員が納得した上で、限界額を設定するようにします。つまり、この限界額以下で予定価格が設定されることが重要です。
6.設計業者指名競争入札(自治体又は経理規定に準ずる)
自治体によって、設計費の補助がある場合とない場合がありますが、自治体単独補助がある場合は、随意契約ではなく、競争入札が求められます。自治体のマニュアルに従います。建築と比較して費用が少ないので、一般競争入札より指名競争入札で十分と考えられます。入札の流れは、後述する施工業者入札の段取りと類似していますので、ここでは、省略します。
7.基本設計を自治体に提出(承認得ないと予算化出来ない)
設計事務所が確定し、担当設計士が決まったら、早速、基本設計作成に着手します。この基本設計作成は、3~4ヶ月は、最低必要です。運営者だけの意見で進めるのではなく、建築準備委員会等を立ち上げて、一般職員の意見を吸い上げていくことを薦めます。
ある程度、完成したら、自治体からヒアリングを受けます。特に、最低基準を満たしているかを中心に、ハートビル法や地域の条例等が厳守されているかどうか等のチェックを受けます。このチェックにパスしないと、自治体予算化の段階にステップアップ出来ないことになります。
8.実施設計と積算書を自治体に提出(国庫協議・自治体予算化資料)
基本設計の承認を得たら、実施設計作成に着手します。これは、国庫協議の基礎資料及び、自治体予算化の基礎資料として活用されます。また、積算書を作成します。これは、一般競争入札における「入札予定価格」になります。この積算内訳書は、紙の厚さにして10
cm程度になるので、チェックする気が起きませんが、設計士から概要の説明を受けて、大体の内容を理解しておくよう心がけます。また、理事会で設定された法人限界額を超えている場合は、積算の削減を設計士と協議します。
補助対象とは、建物に関わる部分で、土地に関わる部分は、基本的には、補助対象外になります。従いまして、外構工事等は、全てが補助対象として認められない場合がありますので、自治体担当者と充分に協議します。
9.国庫協議内示又は自治体単独内示
国庫協議用の提出書類は、基本的に自治体職員が作成しますが、例えば、設計図等の添付書類を揃える必要があり、自治体職員に施設の情報を伝える必要があります。提出書類完備までに数度、自治体とのヒアリングがあります。
現在は、実際に役所に出向いてヒアリングを受ける場合と、電子メールやFAXを利用して情報交換を進める等が同時並行で行われます。IT化を利用することによって事業にスピード感が加わります。福祉医療機構や社会福祉協議会との情報交換でも電子メールを利用するシーンが発生します。
もし、仮に実務担当者が「パソコンは使わない」とのポリシーを持っている場合は、速やかに改善努力をする勇気が求められます。
10.理事会決議
これまでの事業経緯を報告すると共に、福祉医療機構等から融資を受ける旨の承認を得ておきます。この議事録は、機構への提出書類になりますので、必ず、承認を得ておきます。決算理事会、中間理事会、予算理事会と、年間3回の定例理事会がありますので、理事会承認が必要な案件は、計画的に議事に載せるようにします。
11.福祉医療機構へ借入書類提出(受理票受取が契約の条件)
福祉医療機構より「福祉貸付資金借入申込の手引き」を取り寄せます。最近は、書類フォームをCDに収めてあり、それも同梱されますので、手書きより、タイピングでの作成が主流です。
自治体に意見書の作成依頼を行ったり、国庫協議内示の厚労省文書が求められたり、公図や全部事項証明書の添付が求められます。また、保証委託を申し込むか連帯保証人を立てるかを決断する必要がありますが、保証委託を申し込む方が、簡易な手続きで済みます。勿論、委託料は、融資額にもよりますが、大体160万円程度必要です。
提出すると、不備があれば、指摘の連絡がありますので、即座に対応します。完成すれば、受理票が送られてきます。
12.社会福祉協議会融資申請(前年度に予算化予約)
社会福祉協議会等の融資を受ける場合は、申請します。前年度には、申告しておくようにしておきます。これは、受ける場合と受けない場合がありますので、詳細は、省略します。
13.確認審査書完成(民間審査機関)
実施設計の内容が有効かどうかの確認審査を行います。自治体の審査機関でも民間審査機関でも、どちらでも大丈夫です。勿論、確認審査を業務委託する事になりますので経費が生じます。
14.自治体とヒアリング(書類調整)
確認審査の承認印が揃ったところで、自治体とのヒアリングで事業内容を詰めていきます。特に、積算書の数字が適切かどうかがポイントになります。
15.設計士対自治体監査課
この段階では、殆ど、最終確認ですが、修正を求められた場合は、即座に対応します。
16.理事会(公告内容・予定価格)
積算書の自治体承認を受けたら、それは、予定価格の根拠になります。施工業者入札に関しての計画書を提示し、理事会承認を得ます。入札は、契約に関する行為であり、本来は、法人の経理規定を元に進められますが、補助金事業であり、自治体のマニュアルに準じて進めていくことになります。
17.法人対自治体監査課
法人として、この事業を実施する旨の自治体との相互確認を行う場となります。
18.自治体より結果通知
実施設計図及び積算書についての承認結果が通知されます。これがないと、入札の段取りに進めません。
この時点で、補助金事業として認識されたことになりますので、事業としては、第一段階クリアと言えます。
19.公告(期間を2週間に設定)
結果通知が届いたら、早速、施工業者入札の公告を出します。建通新聞等の業界紙を利用します。掲載料は、掛かりません。或いは、ホームページや法人事務所の玄関等にも掲示します。
公告には、問い合わせ先として設計事務所を提示していますが、施工業者は、営業活動の一環として、問い合わせをしてきたり、訪問してきたりしますので、各者に対して平等に対応します。それは、談合を疑われないために必要な対応です。
贈答品や飲食等の接待を決して受けないように気をつけます。
20.入札参加締切
締切日時は、厳守します。締切後の書類提出は、きっぱりと断ります。
自治体のホームページで施工業者として指名停止を受けていないか等のチェックを行い、仮に指名停止業者であれば、リストから外します。殆どの場合、指名停止業者が入札参加を申し込むことはありませんが、指名停止期間を勘違いしている場合も、稀にありますので、確実にチェックするようにします。
21.入札参加有資格候補者報告書提出
自治体に報告書を提出します。自治体によっては、自治体外の企業が単独で入札に参加するのではなく、地場企業とのJV(Joint Venture)でないと認めない等のルールがある場合もあります。自治体発行のマニュアルで再度、リストを確認した上で、提出します。
22.自治体より審査結果通知書
自治体でも指名停止の有無を確認し、特に問題がなければ、審査結果通知書を発行します。
23.理事会(入札参加業者決定)
理事会にて、入札参加業者決定の承認を得ます。この決議が議事録に残されていないと、入札が無効になることもあり得ますので、必ず、実施します。
予定価格については、設計によって積算された価格となりますが、その価格の承認を得ると共に最低価格の設定も行います。但し、最低価格については、議事録に記載する必要はありません。法人によっては、理事長単独の決済とする場合もあります。
24.業者へ入札参加資格確認結果通知
理事会承認を受けて、施工業者に結果通知を郵送します。入札説明書を必ず、添付します。この入札説明書に現場説明日や入札日、最低限のルール等が明記されています。
25.現場説明(図渡し)
設計事務所が設計図一式を入札参加業者に配付します。施工業者は、コピー代程度を支払って配付を受ける形になります。施工業者は、この時点から自社において、積算作業に入り、入札に臨むことになります。
26.福祉医療機構提出書類受理通知
この「受理通知書」を受け取る前に入札を行うと、融資が無効になります。必ず、受理通知が届く日付を機構と十分に打ち合わせた上で、入札日を設定するようにします。
27.施工業者選定入札
入札は、不正を疑われることがないよう、公明正大に行います。台本を作成し、事前にリハーサルをしておきます。自治体職員が1名以上、オブザーバーとして出席し、不正がないかどうかのチェックを行います。そのために、出席に関して委嘱状を自治体に提出しておきます。
28.入札結果一覧表公示(2週間)
入札結果を法人事務所の玄関等にて掲示します。それ以上に大々的に公示する必要はありません。公示をしたという事実が必要です。
29.請負契約(工事請負契約書)
施工業者と工事請負契約書を取り交わします。契約書には、設計図や積算書も含まれますので、一式で厚さにして50cm程度の分厚い状態になります。所定の位置に印鑑証明が発行できる法人公印で押印します。
30.自治体へ各種書類提出
施工業者入札の結果報告文書を速やかに提出します。この時点より、自治体担当者は、補助金交付に向けて、本格的に準備を進めていきます。
工事監理については、余程の事情が生じない限り、実施設計を作成した設計事務所が請け負うと考えられます。その際は、経理規定の条項を適用し、入札ではなく、随意契約を行います。その旨、自治体に報告します。
31.起工式
建築事業の実質的なスタートラインです。起工式の形式は、宗教によって異なりますが、施工業者に相談して、一般的な形式で行うと良いです。施工業者は、勿論のこと、設計事務所、自治体担当部署等を招待して、執り行います。弁当配付、喫茶、軽食、会食等は、資金の状況で判断します。茶話会で、紅白まんじゅうをお持ち帰りいただく程度でも十分です。最も、大切な事は、関係者の顔合わせと言うことになります。各関係者とのコミュニケーションを深めます。
32.旧建物財産処分手続き開始(補助金事業の建物の場合)
特殊な事情がない限り、建替の場合は、現存建物の解体からスタートしますので、その建物の財産処分手続きについて、自治体担当者に相談し、必要な書類の助言を受けておきます。古い書類のコピーが求められる場合がありますので、事前に、倉庫の奥深くから取り出しておきます。特に重要な書類は、補助金関係の書類ですが、旧建物は、殆どの場合、30年から50年前の事業ですので、当時の書類が整理保管されていないと、書類探しは大変です。
33.工事着工(週1で業者と施主打合会)
杭打ちを行った時点を着工日に設定するのが一般的です。この時点から、一週間毎に建築定例会議を行い、施主として、建築状況を把握するように努めます。この定例会議で、例えば、壁紙の色や材質を指定したりとか、設備の最終決定を行ったり等、具体的な判断を求められることもあります。建築事業の責任者は、理事長となりますが、定例会議には、施設長や実務担当者が出席し、理事長に後日、報告する形で十分と考えられます。
また、近隣住民からの苦情・要望が寄せられてきますので、施工会社と法人で、内容による役割分担を設定し、近隣住民に真摯に対応していくことが大切です。建築工事中は、現実問題として、近隣に迷惑を掛けているのは事実です。近隣から問い合わせがあった場合は、即座に対応すると共に、月間工事予定或いは週間工事予定表を作成し、近隣に定期的に配付するなどの情報開示を心がけます。
34.理事会決議
補助金及び融資計画を理事会で承認を得ます。この議事録も、自治体や機構等から提出を求められます。補助金や融資の入金や業者への支払い等、経済活動の状況は、必ず、理事会で報告し、議事録に載せるようにします。定例理事会だけでは、間に合わない場合は、臨時理事会を開催することもあります。定款で理事会書面出席の項目がなければ、臨時理事会のために、全理事との日程調整が必要になります。
35.機構への融資申請
第一回目の融資申請を行います。「貸付契約・資金交付・事業完了等の手続き」が郵送されてきていますので、マニュアル通り書類を揃えます。揃えた書類を送付すると、抵当権設定登記手続きの必要書類が送られてきます。指示通りに準備を進めます。抵当権設定登記手続きは、素人では、大変な手続きですので、司法書士に依頼した方が確実です。8万円程度の経費を要します。この抵当権設定登記手続きは、第一回目融資申請時だけです。2回目以降は、融資申請だけ行います。
建築事業用の口座を開設しておきます。融資や補助金の入金口座とし、施工会社や設計事務所への支払いも、その口座から行います。これが、資金の流れの証明になり、その通帳のコピーを機構や自治体に提出することになります。
36.融資償還
融資を受けた1年後から利子支払いが発生します。2年後から元金償還が生じます。定められた日程で、確実に償還を実行していきます。
償還開始年度の資金収支分析表を予測作成します。経営状況によっては、人件費や事務費の削減が必要になる場合もあります。また、将来の修理修繕に向けての積立金の計上も考慮する必要があります。
最も大切なことは、融資償還を確実に行っていくことですが、経営とは、多角的な経営分析を行い、未来の後継者達が、経営を引き継いでいけるよう調整しておくことも重要です。
37.出来高中間検査(自治体)
施工費や工事監理費は、出来高払いが原則となります。従って、出来高が確定しないと、支払われないため、業者としては、資金繰りの面で不利益を被ります。そのため、年度毎の出来高検査と共に、年度途中で中間検査を受けるのが一般的です。例えば、工事進捗率50%で出来高検査を受けて承認されれば、施工費の50%が支払われると言うことになります。
出来高算定表や施行写真他、自治体への資料準備を施工業者や設計監理が行います。
38.補助金精算請求(各年度毎の国庫協議)
中間検査を受けた場合は、その時点で、補助金の精算請求を行いますが、年度が終了した時点でも出来高検査を受けます。国庫協議における交付金申請は、年度毎に予算化されるからです。自治体から所定書式の書類提出を求められますので、速やかに準備し提出します。
39.旧建物財産処分(竣工年度に手続き完了)
旧建物の解体が完了した時点で、その財産は、滅失しているため、財産処分となります。ただし、登記簿変更や、会計上の建物除却処理は、新建物との切り替えで行えば、事務処理が一度で済みます。反対に、その様な対応をしなければ、一時期、建物資産が全くない状況になり、それで、施設運営を行っているとの矛盾が生じてしまいます。
40.竣工
竣工後、建物の引渡を受けたら、引っ越しとなります。その前に、備品等を搬入します。初度設備として、購入している場合が殆どですので、備品購入に関しても、入札結果書類又は、随意契約に至る議事録等や、見積書・請求書等を確実に保管しておいてください。
棟や部屋の名称を明示したい場合は、施工中の定例会議で、設計士に指示しておきます。殆どの場合は、設計士より「どうしますか」と問い合わせてきます。
41.出来高完了検査
自治体による出来高完了検査を受けます。この承認を受けたところで、支払い残金の殆どを業者に支払います。ここで、殆どと言う表現をしたのは、機構の最終融資が2ヶ月後になるからです。
42.落成式
落成式の規模は、単純に資金状況によって決まります。竣工前に招待客のリストを精査し、招待状を送付し、出欠の回答を受けておきます。招待状に明記された式次第の内容に応じて、招待客は、祝金等の準備をします。祝金が必要ない場合は、その旨、招待状に明記しておくことが必要です。
落成式で記念品を配付する計画であれば、既製品にするのか、手作り品にするのか、早い段階で決定します。手作り品の場合、準備期間も想定し、計画を進めていきます。
43.実績報告書提出・定款変更
自治体や機構等に実績報告書を提出します。竣工し建物の引渡を受けた時点で、登記簿変更を行います。もし、狭あい道路のため道路拡幅工事を行っている場合は、土地の形状が変化している場合があります。登記に関する一連の変更を行った後で、定款変更を行います。
勿論、登記簿変更や定款変更は、その内容を理事会にて承認を得て、議事録に記載しておく必要があります。変更した公文書は、自治体や福祉医療機構から提出を求められますので、事業所保管分も含めて、3通以上、発行しておきます。
44.竣工2ヶ月後機構最終融資(融資額の1割)
機構から最終融資が行われます。融資総額の10%です。入金されたら速やかに業者に支払います。
ここまでで、施設整備事業が完了します。しかし、この先、20年から25年間、融資返済が続いていきます。実務担当者が若ければ、返済終了まで、その担当者が関わることになりますが、それは、稀なことです。大抵は、担当者に変化が生じることになります。
施設整備に関する一連の書類を系統的に分類し、保管します。特に公印が押印されている文書は、書類の重要性を精査し、重要度が高い書類は、金庫に保管する必要があります。
返済計画書や長期修繕計画書は、将来的に何度も確認する書類です。金庫等、分かりやすいところにファイルを置いておきます。
つまり、現在の実務担当者は、未来の担当者に対する配慮を怠らないことが重要です。
最後に
建物の老朽化等で改築事業が行われる場合、そのプロジェクトに、ぜひ、一般職員も積極的に参加できる雰囲気作りを心がけます。建物の建て替えには、夢と希望が詰まっています。建物が原因でなし得なかったノーマライゼーションへの取り組みが可能になり、より家庭的な間取りへの変更も可能です。経営者だけで担うのではなく、実践現場の意見を子どもたちの代弁者としての意見として吸収します。また、建て替えは、行事予定等のスケジュールを共有したり、ホールや応接室等の予約をしたり、車の予約をしたり、連絡事項は、掲示板や園内メールで伝えたり、ケースファイル等を共有したりなどなどを一元管理できるように、IT化を進めていく良い機会でもあります。
新会計基準になり、土地・建物が、法人会計から施設会計に移行されましたが、建設事業は、各施設の事業ではなく、法人事業になります。従って、判子は、法人印であり、代表者は理事長です。各種契約も、勿論、法人印で行います。
つまり、本来は、理事長が行うべき業務を、実務担当者は、代行して行うわけです。ですから、常に情報を理事長に報告し、指示を得ることが重要です。
施設整備事業の日常業務として各業者からの営業訪問対応も、挙げられます。次から次へとやってくる営業を、てきぱきと対応し、必要を要しない営業を、きっぱりと断る適正な判断も重要です。また、談合を認めない姿勢も、補助金事業では、特に求められます。設計・建築・解体等、随意契約ではなく、入札による業者選定が必要になります。他にも、備品購入や看板等の設置、ゴミ置き場の整備等、たくさんの雑事がありますので、次の仕事の予測を常に考えて、計画を実行していきます。
特に「児童家庭支援センター」等、新規事業を立ち上げる場合は、更に準備項目が増加します。また、新規事業の新規雇用契約や、定員増の場合の新規雇用計画も進めていかなければなりません。
兎にも角にも、事業の実務担当者は、頭を柔軟に保ち、広範囲を見渡し、段取っていく、機知に富んだ能力が求められます。
これから、実務を担当していく皆さん、恐れず前向きに楽しんでプロジェクトに立ち向かってください。プロジェクト達成後には、必ず、自分の人生にとっての豊かな経験として、スキルアップすることは勿論のこと、自分の誇りになることは、間違いないでしょう。